従来の眼球運動測定装置を用いた方法では、(c)図のようにタブレット端末を読む際に頭部と手が動くと視野カメラの映像も動き、(a)図に示すように、□や十のマークで示す視線の位置を示す画像も大きく動きます。
 提案方式では、頭部運動と手の動きに伴う視線の動きに眼球運動を加えた視線を算出できるため、外部からタブレット端末を撮影した固定映像上に視線の動きを重ね合わせることができます。
 この装置を使うことにより、タブレット端末を持つ手をしっかり固定したり、頭部を動かさないようにして見る必要が無く、自然なスタイルで人の読書行動などを調べることができます。
 眼球運動は眼球運動測定装置により測定します。手の動きと頭部運動は加速度センサによって測定し、眼球運動に相当する動きに換算します。
 コンピュータを用いて、視線の動きを以下に式に従って計算します。

視線の動き=眼球運動+頭部運動を眼球運動に換算した値+手の動きを眼球運動に換算した値

 外部のカメラで観察者の視野に相当する映像を撮影し、その上にスイッチャーと呼ばれる映像合成装置を使用して、視線の動きを重ね合わせます。

眼球運動、頭部運動と手の動きの測定装置の開発

本文へジャンプ 2016年2月2日 
 実際の視線の動きは眼球運動と、体の動きを含めた頭部運動との合成により実現されています。空間的に離れた視対象を見るときには、頭部運動が優勢になることが多く、個人差はありますが、30゚離れた視標を見る場合、視線移動の約60%は頭部運動によって実現されます1)。頭部運動と眼球運動は、前庭動眼反射(VOR, Vestibulo-Ocular reflex)により密接に結合しています。VORは三半規管の働きにより身体に加わる角速度や加速度を検出し、身体の動きに伴って生じる頭部運動を眼球運動に補償させ、空間上の視線を安定に保持しています。
 また、最近では電子書籍やタブレット端末を手で持って、読書したり操作するのが当たり前になってきています。たとえば、下の方を読むときには、頭部を下げる、眼球を下に動かすだけで無く、手を上に上げることによっても見やすくできます。このように眼球運動、頭部運動、手の動きは密接に関連しています。そこで、この3つの動きを視線の動きに統合できる測定装置の開発を進めています2)


1)山田光穗:2次元平面上の視標を注視させたときの頭部運動と眼球運動の協調関係の分析、信学会誌,Vol.J75-D-U,5,971-981(1992
2)Hideaki Takahira, Kei Kikuchi, Mitsuho Yamada:A System for Measuring Gaze Movement and Hand Movement Simultaneously for Hand-Held Devices,IEICE Trans. Commun. E98.B(1), 51-61, 2015